情報はどこにあるのでしょうか
スマートフォンで友人に写真を送り、地図アプリで目的地を探し、動画や音楽を楽しむ。私たちの生活は情報を扱う技術に支えられています。自動車、航空機、家電、建造物、医療機器、ロボットにも、多数のセンサ、コンピュータ、通信装置が組み込まれています。情報工学は、いまや画面の中だけでなく、社会や環境を動かす基盤になっています。
では、情報はもともと自然界に存在しているのでしょうか。自然界には、光の明暗、音の高低、温度や電圧の差、生物の遺伝子配列など、さまざまな違いがあります。しかし、違いがあるだけでは、まだ人や機械が利用できる情報になっているとは限りません。その違いを検出し、区別し、何かを表すものとして扱ったとき、情報として働き始めます。
たとえば、空気の振動をマイクが電気信号に変え、一定の規則で数値に置き換えると、音をコンピュータで扱えるようになります。情報工学の出発点は、世界にある差異から、安定して扱える区別をつくることにあります。
区別を記号に変える
コンピュータが扱う0と1も、物理的な状態の区別です。低い電圧と高い電圧、光がない状態とある状態などを0と1に対応させることで、文字、画像、音声、位置、動きなどを同じデジタルデータとして表現できます。
データは、世界の出来事そのものではありません。何を測り、どの違いを残し、どの形式で記号にするかという選択を経てつくられます。情報工学では、必要な違いを失わず、不要なばらつきや雑音を抑えながら、情報を獲得し、表現する方法を考えます。
情報を伝え 蓄え 処理する
記号化された情報は、通信によって離れた場所へ伝わり、記憶装置に蓄えられ、コンピュータで処理されます。通信では、雑音や障害があっても送った記号を正確に復元できます。計算では、多数の記号を規則に従って変換し、検索、予測、制御などに役立つ結果を得ます。画像や音声を人に分かりやすく提示することも重要です。
このように情報工学は、情報の発生と獲得から、表現、伝達、蓄積、処理、提示、判断、制御までを一つの流れとして扱います。コンピュータ科学、人工知能、メディア工学、通信工学を組み合わせるのは、この流れのどこか一つだけでは、実際に役立つシステムをつくれないからです。
機械は区別の仕方を学ぶ
従来のコンピュータは、人があらかじめ記述した規則に従って情報を処理することを得意としてきました。現在の機械学習は、大量の事例から、どの特徴に注目し、どのように区別すればよいかを学びます。画像の中から物体を見つける、音声を文字にする、異常の兆候を検出するといった人工知能技術は、その代表です。
大規模言語モデルは、人間が書いた膨大な文章に現れる語や文の関係を学び、文脈に応じた説明、要約、翻訳、対話などを行います。ここでは、開発者が「猫とは何か」「丁寧な依頼とは何か」といった規則を一つずつ書いているわけではありません。人は、学習の仕組み、データ、評価方法、利用環境を設計し、機械はその条件のもとで有用な区別や関係を獲得します。
情報工学は、人が決めた区別を高速に実行する技術から、区別の仕方そのものをデータから学ぶ新たな技術へと広がっています。
情報工学科で学ぶこと
慶應義塾大学理工学部情報工学科では、プログラミング手法・アルゴリズム・コンピュータの仕組みを中心としたコンピュータ技術、情報を正確かつ効率よく伝える通信技術、画像や音声などを獲得し表現する人工知能技術・メディア処理技術を基礎から学びます。さらに、ネットワーク、セキュリティ、ロボティクス、ユーザインタフェースなど、これらの基礎が結びついて生まれる分野へ学びを広げます。
本学科が目指すのは、既存の技術を使えるだけの人材ではありません。実際に世の中で起きている出来事から解くべき問題を見いだし、必要な情報を捉え、原理を理解してシステムを構想し、検証しながら実現できる技術者と研究者を育てます。同時に、技術が人や社会に与える影響を考え、異なる専門や立場の人々と協力できる力を養います。
情報のあり方が変われば、社会のあり方も変わります。情報工学科は、目まぐるしく変化する現代社会においてますます価値が増す情報工学技術を基盤とし、新しい可能性を自らつくり出すことのできる人材を育成し、未来の社会に貢献します。
情報工学科の歴史
1996年度、理工学部の学科改組により、情報、通信、計算機を総合的に修得し、将来のIT産業を支える人材を育成することを目的に 「情報工学科」が誕生、1997年度にはじめての2年生を受け入れ、専門教育科目をスタートさせました。1999年度の3月に一期生が卒業しましたが、うち8割が大学院に進学したため、情報工学科の教育を受けた学生の多くは2001年度から社会に出たことになります。
1996年度スタート時には予想もできないスピードでIT産業は発達を遂げ、現在身の回りに氾濫するIT機器のほとんど全てが、音声、画像などのメディア技術、ネットワーク、無線などの通信技術、そしてそれらを制御する計算機の三つの要素を組み合わせの上に成り立っています。このうちどの知識が欠けても、これらの機器のデザインは不可能と言っても良いです。この点で、我々の学科の創設意図はまさにずばり現在のIT社会の発展に適合しており、これら三つをバランス良く、かつ徹底的に修得した卒業生の多くは社会から高い評価を得て、IT産業を中心に活躍しています。
情報工学科に進学するためには
慶應義塾大学では入学する際に学門と呼ばれる5つの分野に分かれて入学し、その後2年進級時に自身の興味に基づいて学科を選択します。また、情報工学科を選択する学生のほとんどは学門B、学門Cを出身としています。
その内訳を以下の図に示します。
学問のすゝめ
- 2026年掲載: 量子情報で生活は変わるのか 佐藤貴彦 著
- 2025年掲載: 物理的制約を超えるための感覚・行動情報の設計 杉本麻樹 著
- 2024年掲載: 音楽を科学する 斎藤博昭 著
- 2023年掲載: 浮世離れした研究のすすめ 寺岡文男 著
- 2020年掲載: ムーアの法則が崩壊し、コンピュータアーキテクチャの多様性爆発が始まった 天野英晴 著
- 2019年掲載: プログラミング不要? 遠山元道 著
- 2018年掲載: 視点を変えて物事を見る 斎藤英雄 著
- 2017年掲載: 組込みリアルタイムシステム</u >山﨑信行 著
- 2016年掲載: ソフトウェアを "研究" するということ 河野健二 著
- 2015年掲載: 「新結合」が産む新しいスマートネットワークの世界 山中直明 著
- 2014年掲載: 気配りのできるロボット頭脳ーニューラルネットワークによるアプローチー 萩原将文 著
- 2013年掲載: 計算報道学のすゝめ 藤代一成 著
- 2010年掲載: 新しい分野を開拓し、実現できる力を!! 山中直明 著
- 2009年掲載: 匂いのデジタル制御 岡田謙一 著
- 2008年掲載: コンピュータグラフィックス 大野義夫 著
- 2006年掲載: コミュニケーションロボットとコンピュータ科学 今井倫太 著
- 2005年掲載: 個性溢れるリーダーを育てたい 笹瀬巌 著
- 2004年掲載: 可視光通信のすすめ 中川正雄 著

